──小さい頃、公園に屋台がやってきた
仮面の型枠にねんどを流し込む
うまく固めればポイントがもらえて
豪華賞品と交換できるという
謎の遊びだった
子供たちは群がり
僕もまた時間を忘れて仮面を作った
その横で、夕焼けの空はやけに綺麗だった
──大人になり
会議室に並ぶ顔もまた仮面だった
不自然な笑みを貼り付けた
マネージャーの彼は言った
「入札に勝てば君も昇進だ」
だがわかっていた
昇進するのは彼であり
僕はただの兵隊であると
揉めたくないから
「なんとかします」と言い残し
仮面の群れから抜け出した
社会に出て気づいたこと
仮面を被ったやつらは
利益のためなら平気で人を踏み台にする
だが僕は
その仮面の奥を見抜く眼を持っていた
──もうひとつの顔
潜入捜査のハンターとしての僕
依頼屋から持ちかけられたのは
麻薬密売の阻止依頼
「君ならやれるだろう」と差し出されたのは
狙った獲物を決して外さない銃
“ジャッジメント・ガン”
照射レベルを自在に操れ
数秒のバリアすら展開する
だがその時すでに
依頼屋の笑顔の奥に
あの仮面の違和感を感じていた
港の倉庫
闇の中に浮かぶアタッシュケース
麻薬の束を確認した僕は
銃を最低照射レベルに切り替え
閃光の連射を浴びせる
密売人たちは次々に気絶し倒れた
トランシーバーで合図を送ると
特殊部隊が一斉に突入し
場を制圧していく──そのはずだった
依頼屋が背後に現れる
やはり、あの仮面の笑み
僕の寒気は正しかった
咄嗟にバリアを張ると
彼はジャッジメント・ガンを最大照射にし
無差別に連射した
倉庫にいた全員が崩れ落ち
立っているのは僕ひとり
「気付いていたか」
「お前のその銃は、私を撃てないよう顔認証で設定してある」
冷たい声が響く
僕は小さく笑い返す
「だろうな…」
その瞬間
上着の奥から隠し持っていた小型の銃を抜き放ち
弾丸を撃ち込んだ
仮面の笑みは砕け落ち
静寂の中で僕は呟いた
「仮面は欺くためにあるんじゃない
遊ぶためにあるんだ」
──翌日
入札額を下げた資料を提出し
ほどなく会社を去った
噂では、無理な数字で通した案件は破綻し
マネージャーは降格したという
子供の頃、仮面を作りながら見た夕焼け
その色は今も変わらない
仮面の群れに飲まれず
自分の道を刻み続ければ
あの夕焼けはいつだって
綺麗に映るはずだ
そしてその先に広がる自由の空へ
僕は今日も
時間を忘れて歩いていく
