サラリーマン時代
転勤していた頃
東京へ帰る夜は
深夜バスに乗っていた
キャリーバッグを引きながら
レンガの通りを歩く
オレンジ色の街灯
飲み屋から漏れる笑い声
少し湿った夜の空気
知らない街なのに
その時間だけは
不思議と自分の居場所みたいだった
どこか現実から
一枚めくれたページを
歩いているような夜
バス乗り場に着くと
大勢の人が並んでいた
帰る人
向かう人
きっと何かを置いてきた人
それぞれの荷物が
足元に並んでいた
ぎゅうぎゅうのバスに乗って
イヤホンを耳に入れる
音楽を聴いていたはずなのに
だんだん聞こえてきたのは
自分の心の音だった
このままでいいのか
どこへ行きたいのか
答えなんて
まだ何もなかった
ただ
ひとつだけ思った
行く場所くらい
自分で決めていい
誰かが引いた線の上を
歩き続けなくてもいい
窓の外には
オレンジの光が流れて
その向こうに
小さな月が浮かんでいた
言葉にできない願いを
月の光に預けながら
バスは東京へ向かって
静かに走っていった
あれから
いくつも道を変えた
遠回りもしたし
傷も増えた
それでも今
自分で選んだ場所に立っている
あの夜
レンガの道を歩いていた自分に
今なら言える気がする
迷ってもいい
行き先は
何度だって変えられる
キャリーバッグの車輪が鳴るたび
少しずつ
自分の道が
できていたのかもしれない

























































































