①哲学的思考とは?
「終着点のない思考の連鎖を試みる態度に基づく思考」
哲学的思考の定義
私見ですが、哲学的な思考とは上記のようなものだと考えています。
簡単に言えば「思考を、あるところで止めないようにすること」です。
「終着点のない」というのは、「合目的的でない」ともいえるかもしれません。
わかりづらい定義だと思いますが、この定義の逆の思考を考えるとわかりやすいでしょう。
哲学的な思考の逆は、「課題解決思考」に代表される「終着点のある、合目的的な思考」です。
例)「お金を稼ぐにはどうしたらよいだろう?」
課題解決思考の例
この問いは、「お金が足りないからほしい、お金を稼ぐためにこの思考をしている」という態度による思考で、お金を稼いでしまえば不要な思考であり、お金のために考えていると言えます。
つまり、思考は手段、思考の結果(お金を稼ぐ方法論)こそが目的になっています(※1)。
その一方で、哲学的思考は思考そのものが目的であるため、その思考が役に立つかどうかや用を成すかどうかとは関係がありません。
役に立つから哲学的思考ではない、役に立たないから哲学的思考である、という話ではないということです。
例)「(自分がお金を稼げるか否かとは無関係に)お金を稼ぐにはどうしたらよいだろう?」
哲学的思考の例
こうした思考は、その人が持っているお金の量や稼げたかどうかにかかわらず意味を持ちます。
大事なのは、思考の内容ではなく、思考する態度によって哲学的思考かどうかが決まるということです。
思考の内容は問題ではないため、誰でも哲学的な思考ができるといえます。
科学的でなくても、難しい言葉を使わなくても「自分なりに考えようという態度」さえ持てば哲学的な思考はできます。
逆に、「何かのために考える」、「価値のある答えを見つけたい」という態度で考えていると哲学的思考は難しいでしょう。
皆さんの日々考えていることのうち、「考えることそのものを大事にした思考」はどれくらいあるでしょうか?
おそらくたいていの考え事は、直面している課題を解決するための思考で、「支出を減らすにはどうすればいいか?」、「この投資はどのくらいのリスクか?」といった合目的的な内容だと思います。
そして、このような思考は、「求める結果が得られればその思考過程は顧みない」ような思考といえるでしょう。
もちろん、課題を解決するための思考は知性の素晴らしい一面であり、こうした思考により世の中が良くなっているのは間違いありません。
課題解決思考と哲学的思考は相反しているという言うより、特徴の違う思考だと思います。
これら2種類の思考を使い分けられるといいのですが、昨今の世の中(※2)では「それは何の役に立つのか?」、「稼ぐことにつながるのか?」といった思考があまりにも強いため、哲学的思考ができない人が多いように感じます。
「課題解決思考だけできればいいじゃん」という見方もありますが、課題解決思考には弱点があると思います。
課題解決思考はすでに課題があることを前提にしているため、課題がないような状況や、そもそもその課題を解決するのが何を意味するのかといった、課題が設定される前の思考が苦手です。
哲学的な思考は、「そもそも何がしたかったのか?」、「なぜそれを課題と思っているのか?」といったように課題のゴール(解決)とは別の方向に展開をすることが多いです。
「お金を稼ぐにはどうしたらよいだろう?」という問いに対しては、下記のようにいろいろな方向への思考に連鎖的につながります。
「お金を稼ぐとはどこからどこまでのプロセスのことなのか?」
「自分が稼いだお金はどこまで流通するのだろうか?」
「貯金は社会全体にとってどのような意味を持つのか?」
思考の連鎖の一例
ここでのポイントは、問いに対して思い浮かんだ答えから次の問いを立てる、といった具合に思考の連鎖を続けることです。
Q.「お金を稼ぐとはどこからどこまでのプロセスのことなのか?」
→A. 取引相手からお金を受け取り、自分が自由に使える状態にするまで
→Q.「自分が稼いだお金はどこまで流通するのだろうか?」
→A. 自分が支払ったお金も誰かに使われるはず。それを繰り返してどこかで貯金として滞留するか、税金として回収されるかだろう(※3)
→Q.「貯金は社会全体にとってどのような意味を持つのか?」
→A. 個人にとっては資金の計画的な使用を可能にする合理的選択。社会にとってはお金の取引総量を減少させるからマイナスかもしれない…
思考と答えの連鎖の一例
これらの思考の連鎖にはどこかに終着点や明確な目的があるわけではなく、思考の連鎖やその展開を楽しむような態度が哲学的思考なのです。
①哲学的思考とは?のまとめ
・哲学的思考は「終着点のない思考の連鎖を試みる態度に基づく思考」のこと
・課題の解決につながるかどうかや思考の内容と哲学的思考とは無関係
・ある思考(問い)の答えを次の問いに繋げていき、それを楽しむ!
②哲学的思考は何の役に立つの?
さて、哲学的思考がどのようなものかつかめたところで、この哲学的思考が一体何の役に立つのかということを考えてみましょう。
・情報発信者に誘導されづらくなる
・自分の考えの弱点を自分で補える・頭の回転が速くなり、思考の体力がつく
・コンサルティングやコーチングに使える
哲学的思考の利点
哲学的思考は「そもそも~?」と問うことが多く、目の前に出された情報に対して距離をおいて考えることができます。
世の中にある詐欺まがいのグラフや、ポジショントーク(※4)は、その発信者が受け手の思考を誘導させる意図があります。
哲学的思考はそうした思考の誘導に対して非常に有効に働き、煽情的なニュースにも冷静に向き合える実感があります。
また、自分の考えに対してすら、「そもそも~?」と顧みるので、壁打ち役がいなくてもある程度考えを深堀りすることができます。
もちろん自分から出てきた思考を材料にしているため、自分という枠を超えた発想のいきなりの飛躍などは難しいですが、一般論から離れた自分独自の視点で思考を深められます。
さらに、哲学的思考を繰り返すことで、思考のスピードが劇的に上がります。
私が哲学に出会ったのは高校時代なのですが、哲学の本を読むようになり、明らかに学業成績が上がりました。
おそらく、何かを考えるということが苦ではなくなり、学校の勉強で扱うようなトピックについても主体的に深堀りすることで知識が多面的に身についたのだと思います。
スピードと同様に、思考の体力もつきました(※5)。
何かを考える行為はとてもしんどいことで、一日のうちに思考に集中できる時間はとても短いです。
意識的に哲学的思考をすることで、物事を考える集中力や持続時間が上がった印象があります。
最後に、自分自身のためではなく、誰かのためになるという利点もあります(※6)。
課題の前提を疑ったり、別の角度から眺める能力は、すでに常識が固まっている段階ほど効果があります。
誰もが疑わない前提を深堀りすることができるのは、物事に熟練したり慣れてくるほど難しくなるもので、こうした観点をコンサルティングやコーチングに導入することは、行き詰ったクライアントを大きく助けるはずです。
以上、4つの観点から哲学的思考の利点を紹介しました。
様々なメリットがあるとはいえ、哲学的思考の態度が「合目的的でない」というのと同じように、哲学的思考そのものも合目的的でなくてもよいと思っています。
つまり、「哲学的思考が役に立たなくてもいいや」ということです(笑)。
価値はなくても意味があればそれでいいのです(※7)。
②哲学的思考は何の役に立つの?のまとめ
・自分で考え続ける態度により、騙されず、考えを研ぎ澄ませ、人にその研ぎ澄ました思考を共有することができる
・哲学的思考は役に立たなかったとしても意味がある
③哲学的思考を身につけるにはどうしたらよい?
では、そんな魅力たっぷりの哲学的思考ですが、意識的に身につけることはできるのでしょうか?
結論、誰でも哲学的思考を身につけることができます。
しかも、金銭的にノーコストです(※8)。
私なりの方法の1つですが、ご参考になれば幸いです。
①身の回りの事柄について頭の中で言葉にしてみる②その思考について、スケールを色々変えて問いを立ててみる③問いに対する答えからまた問いを立てる
哲学的思考を身に付けるステップ
手始めに、自分の興味のある事柄について自分の頭で問いを立ててみましょう。
食べ物、好きなアーティストのこと、ビジネスのなどでもどんな事柄でも大丈夫です。
YouTubeを毎日見てます!
身近なところからの哲学的思考の例
ここから思考の内容に対して、スケールを上げたり下げたりします。
スケールとは物事の捉え方のことで、時間的なスケールや空間的なスケールといった、様々な領域でスケールがあります。
例えば、時間的なスケールとして過去を振り返ると、YouTubeは2005年に誕生したサービスで、それ以前は存在しませんでした。
逆に未来のことを考えると、そのうちYouTubeのコンテンツで3次元の動画やホログラムが充実していくかもしれません。
こうした観点から問いを立ててみます。
哲学的思考の深堀り例
上記の思考は、難しい問いや哲学的な概念から始まった思考ではなく、思考の連鎖の仕方もさほど難しいものではありません。
これをつなげていくと、例えば下のようになります。
→取って代わられた習慣はどうして取って代わられたのか?
→自分にとって必要なかったのか?
→その当時は必要な習慣だったはず?
→自分に必要な習慣であるか否かはどうしたらわかるのだろうか?
→…
身近なところから哲学的思考の例
最後の「自分に必要な習慣であるか否かはどうしたらわかるのだろうか?」という問いを見ると「なんだか難しそうな話だなぁ」と感じるかもしれません。
しかし、上で見たように1つ1つの思考のステップは難しいものではなく、思考の始まりは「YouTubeを毎日見てます!」という、ごく身近な内容です。
そこから、「思考を楽しもう」という態度とほんの少しの忍耐があればだれでもできるものです。
上の例では時間的なスケールを出発点にして問いを考えてみましたが、他にもいろいろな観点で考えられるでしょう。
・空間的(「日本以外の国であっても自分は学長Liveを見ていたか?」)
・客観的(「人を惹きつけるポイントはどこか?」)
・コストパフォーマンス的(「自分が直接知りたい以外の話題が多いにもかかわらずなぜ学長Liveは多くの人に観られるのか?」)
思考を広げる視点の例
どのように思考するかはいろいろなバリエーションがありますが、上で挙げたような視点を手がかりに哲学的思考をしてみるとよいでしょう。
慣れてくると、形式的に「○○的に考えると…」といったことを意識することなく色々な展開ができるようになります。
慣れるまで、まずは3つの思考の連鎖を繋げることを意識してみましょう。
③哲学的思考を身につけるにはどうしたらよい?のまとめ
・身近なところから問いを立てる
・問いを立てる時に、スケールを色々変えてみる
・まずは3つの問いと答えをつなげてみる
まとめ
この記事では哲学的思考の紹介から、それを身につける方法を述べました。
哲学的思考は目的ありきの思考ではなく、思考過程を楽しむものです。
役に立つ・立たないは置いておいて、自分でも驚くような思考の展開を楽しみましょう♪
↓↓↓文章を書きながら思いついた問いです。読まなくても本文の理解に支障はありません。「こんなことを考えるんだ~」ぐらいで見てもらえれば。
※1:手段と目的、結果と過程が相対的なものであるならば、人の印象以外にこれらを区別するのって意味はあるの?
※2:「世の中」や「世間」は実在する?
※3:貯金も税金も、いまや電子的な数字でしかないのが大半なんだけど、紙幣を発行できる政府にとって回収(税収)できたお金の大きさは何の意味があるの?
※4:ポジションのないトークなんてありえる?
※5:思考なのに「体」力とは?
※6:誰かのためと自分のための間に違いはあるの?
※7価値と意味の違いは?意味はあるけど価値のないもの、価値はあるけど意味のないものは?
※8:時間のためにお金を使うこともあれば、お金のために時間を使うことがある、という二面性は何を意味するのか?
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