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写メ日記

全127件中121~127件を表示

龍生の投稿

空白と少女と、ウィンナーコーヒー

06/29 01:51 更新

僕は自由になるために
深夜バスに乗り、東京を目指していた。
新しい明日を探しにいく──そんな旅だった。

心の中は、
お金、自由、成功……
あらゆる欲望でいっぱいで、
“空白”の入り込む隙もなかった。

その夜もまた、
深夜バスの途中、サービスエリアで休憩をとる。
人気のないカフェでウィンナーコーヒーを注文した。
その甘くてほっとする味に、少しだけ心がゆるむ。

ふと顔を上げると、
黒い服を着た無表情の少女が目の前に立っていた。

「ゲームをやめないで」

──そうつぶやいたかと思うと、少女はすぐに姿を消した。
夢でも見たのかと思い、スマホを取り出し
いつもの無料ゲームを開こうとするが、ログインできない。

早朝。東京に着く。
だが、空気が異様に重い。
巨大ビルの外壁モニターに映る緊急速報。

「人工衛星がハッキングされ、
宇宙から強力なレーザーが発射されました。
都市が一瞬で壊滅状態に──」

その瞬間、遠くで閃光が爆ぜ、轟音が響く。
キノコ雲が空を覆い、街が煙になった。
人々の叫び声とサイレン。
映像にノイズが走り、画面いっぱいにあの少女が現れる。

「この世界を、焼き尽くす」

僕のスマホが震える。
見ると、さっきログインできなかったゲームが勝手に起動していた。
僕の頭に、なぜか**“kuuhaku”**という言葉が浮かぶ。

──kuuhaku
僕はそれを入力する。
すると、画面には「No game」とだけ表示される。

僕は静かに目を閉じ、そして開いた。
そして──No lifeと入力した。

少女の映像が、滝のように端から崩れていく。
最後に一瞬だけ、こう表示される。

「私を、忘れないで」

あの事件は、それを境に起きなくなった。

東京に戻った僕は、
小さなカフェに入った。
マスターと従業員しかいない、静かでお洒落な空間。

席についてメニューを見ていると、
まだ注文していないのに、
少し懐かしさを帯びた美しい女性の手が、
ウィンナーコーヒーをそっとテーブルに置いた。

顔を上げると、そこには誰もいない。

マスターに尋ねる。
「さっきの女性、従業員の方ですか?」

彼は首をかしげて言った。
「うちにはそんな娘、いませんよ」

僕はコーヒーをひと口すすった。
甘くて、少しだけ苦い。

そして、立ち上がる。
まっすぐに歩き出す。

──この世界で、もう一度。
自由というゲームを、プレイするために。

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水溜まりと薔薇と、ブラウンシュガー

06/27 02:26 更新

かつて僕は、親会社のプロジェクトリーダーだった。
50人のサプライヤーをまとめて、
毎日が誇りとやりがいに満ちていた。

「このまま課長かもな」
そんな期待すら、浮かんでいた。

──でもある日、僕は“戻された”。
子会社へ、作業員として。
その席にはもう役職なんてなく、
ただの“歯車”が、待っていた。

それでも逆らえなかった。
会社に人生を預けていた僕は、
命じられるまま、田舎の宇宙工場へ通った。

巨大な工場には、似つかわしくない
可愛らしい女性がいた。
彼女は作業員だったが、
笑顔で力仕事をこなしていた。

彼女は、いつも僕にコーヒーを淹れてくれた。
普通の砂糖じゃない、
少し贅沢な“ブラウンシュガー”とともに。

僕はそのシュガーを、こっそりポケットに入れた。
その甘さが、工場の中で唯一の“音楽”だった。

ある日、工場は不気味な静寂に包まれていた。
埃も、光も届かないクリーンルームで、
作業員たちが、血まみれで倒れていた。

そこには牙を生やした“バンパイア”がいた。
彼女もまた、血を吸われて
“あちら側”に堕ちかけていた。

バンパイアは僕を見つけ、襲いかかってくる。
僕はとっさに巨大なファンを回した。
やつは粉々に砕けた。
けれど──再生した。

再び襲いくる怪物。
僕は逃げながら、ポケットの中を握った。
そこに、あの“ブラウンシュガー”があった。

最後の賭けだった。
再生する細胞に、砂糖を混ぜる。
やつの身体は狂い、崩れ始めた。

僕は斧で天井を砕き、
太陽の光を呼び込んだ。
バンパイアの身体は、焼けて消えた。

彼女は、まだ完全には堕ちていなかった。
「コールドスリープで宇宙に送り出して」
そう願う彼女を、僕は薔薇とともに
カプセルにそっと納めた。

最後にキスをして、
僕は彼女を、永遠の旅路に送り出した。

次の日、会社に向かう途中で
僕はふと、空ではなく──
“宇宙(そら)”を見上げていた。

小学生の頃に聞いた言葉を思い出す。
「水たまりは宇宙にはなれないけど、
宇宙を写すことはできる」

僕はもう、“泡”のように消える人生ではなく、
宇宙を映す旅を選んだ。

それは、永遠じゃない。
けれど確かに、僕だけの光だった。

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ピラミッドと地下室と、無音の瞳

06/26 06:21 更新

今日も地下の臭気が漂うバックヤードで、
僕は黙々と汚れ仕事をしていた。
冷凍庫の中で震えながら長時間の作業、
天井裏を這いずるように進むホコリまみれの通路。

寝る場所は、ボイラーの爆音が鳴り響く、
高温多湿の地獄のような部屋だった。

それでも地上では、
キラキラした制服のスタッフたちが
笑顔で“フロント”を飾っていた。

うらやましいと思った。
同時に、あそこに行ける気がしなかった。

学生時代、クラスではそこそこ成績も良かった。
けれど、進む道をほんの少し間違えただけで、
僕はこの底に落ちた。

この建物は、ピラミッドだった。
上層の光のために、下層が犠牲になる構造。
それが現実だった。

ある日、疲れた身体を引きずって
気晴らしに街へ出た。

小さなライブハウス。
隣に座った女性に、なぜか声をかけた。
明らかにお嬢様タイプ。
無視されるかと思ったけれど──
彼女は、優しく微笑んでくれた。

それから何度か、一緒に過ごした。

「どうして僕なんかと?」と聞いたら、
彼女は言った。

「あなたが放つズレが、私には音楽みたいに響くの」

その言葉で気づいた。
僕は枠にはまらない個性を、
無理やり社会という型に押し込もうとしていたんだと。

僕の劣等感の正体は、
他者との比較だった。
毎日、光をまとった“誰か”を見上げては、
汚れた自分を否定し続けた経験。
それが、僕を内側から錆びつかせていた。

ふと気づくと、僕は地下室にいた。
空間が一瞬ゆがんだ感覚。

背後には──
目と耳を塞がれた、僕にそっくりなサイボーグが立っていた。
感情を失った“無音の瞳”が、こちらを静かに射抜いていた。

奴は襲いかかってくる。
尋常じゃないスピードとパワー。
太刀打ちなどできない。
僕は逃げるしかなかった。

そのとき、積み上げられた鉄柱のひとつが床に落ちた。
地下室に反響音が鳴り響く。

サイボーグの動きが乱れた。
目も耳も塞がれた奴にとって、音は唯一のセンサー。
反響音が、やつの感覚を狂わせた。

僕は鉄柱を次々と床に叩きつけた。
金属音が反響し続ける。

奴は僕の位置を見失い、
混乱の中を彷徨っていた。

僕は背後に回り、
鉄パイプを握った。

「チェックメイト」

そう呟いて、こめかみに一撃を食らわせた。
──奴は、動かなくなった。

次の日、
僕は会社とは“逆方向”に歩いていた。

ピラミッドを背に、
自分の足で、
自分の道を歩き始めた。

僕の中で、反響し続ける言葉があった。
「あなたが放つズレが、私には音楽みたいに響くの」

他者の光じゃない。
自分の個性が、自分を救った。

汚れの中でくすぶっていた“音楽”が、
ようやく僕の中で、鳴り始めた。

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古の記憶と欲望と、バベルの塔

06/25 00:29 更新

サークルの仲間たちと
会社帰りに作品を作っていた日々。
その中にいた、予測不可能な彼女。

まっすぐで、自由で、
自分だけの世界を生きていた人。

サークルはいつしか自然消滅して、
僕も日々の仕事に埋もれていった。

そんなある日、
彼女から突然の連絡。
「会いたいの」

彼女は経営者になっていた。
都内で再会した僕たち。
彼女はふと、こんなことを言った。

「AIでは測れない本質ってあるのよ。
 真っすぐな心は、絶対に真似できない。」

なぜかその言葉が、
心に深く焼き付いた。

僕はNEO東京にある
天まで届きそうな超高層ビルで働いていた。
通称──「バベルの塔」。
72階建ての、伝説と噂に満ちた場所。

開発者は10年前に忽然と姿を消し、
今は汚職企業の手に渡っていた。

ある日、66階で異変が起きた。
建物を支える回転装置が停止し、
軋むような音とともに、塔がわずかに傾いた。
誰かの悲鳴と、揺れる足元。

警備ロボが暴走を始め、
塔は制御を失っていった。

“僕だけが”無事だった。
ちょうどそのとき、66階で単独作業していた。
皮肉にも──塔の心臓に、いちばん近い場所で。

館内放送で、命令が下る。
「66階の“何か”が頭脳を狂わせている。
 それを破壊せよ。」

探索の末、僕が見つけたのは、
空中に浮かぶ“開発者の亡骸”。
その身体は配線とつながれ、
バベルの塔に封じられた**“古の記憶”**のようだった。

僕が近づくと、
無数のケーブルが襲いかかる。

逃げても、避けても、
AIが僕の動きを予測してくる。

血まみれになり、
もうダメかと目を閉じたとき、
彼女の声が蘇った。

「真っすぐな心は、絶対に真似できない。」

僕は“ただ前に”歩いた。
予測不能なその一歩に、
AIは対応できなかった。

そのまま、工具を突き刺す。
塔の中枢は沈黙し、
世界が、静かに戻った。

次の日の朝、
ビル風に吹かれながら会社へ向かい、
僕は上司に辞表を差し出した。

あの言葉を、
自分の中で風化させたくなかった。

真っすぐな心に従って、
もう一度、世界を選び直したかった。

欲望と自由の“光”は、
あの日から、僕の中で消えていなかった。

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石と光と、欲望の行方

06/23 23:16 更新

誰からも高く評価されなかった僕は、
「いつか認められる人間になれる」と信じて、
求めていない努力を、
擦り切れた時間に押し込んでいた。

努力だけがすべてだと信じていたけど、
そこにあったのは、
擦り切れた精神と、
力の入らない身体だけだった。

そんなある日、
空が光って、
全人類が石になった。

気づいたとき、僕は石化していなかった。
いや、他にもいるかもしれない。
誰かを探して、歩いた。

やがて出会ったのは──
自由そのものを絵に描いたような、
ひとりの女性だった。

さらに歩いていくと、
“石にならなかった人たち”の集落があった。
その人たちは、
「当たり前に逆らって生きてきた」
そんな人たちだった。

彼らと共に過ごす日々は、
「欲望のために努力する」世界。
評価のためじゃない。
やりたいことに正直で、
そのためには全力になれる、
まるで逆さまに映る自由の国だった。

彼女との時間が、
未来への不安さえ、
愛おしいものに変えてくれた。

でもある日──
空から声がした。

「carry fea(キャリー フィア)…1 second」

蛇の形をした石が、
空に浮かび、
仲間の一人が石化した。

立っていたのは、
“支配”の権化のような男だった。

「個性なんていらない。
社会の歯車だけが生き残ればいい。」

蛇の石は、
“恐怖”を抱えた人に向かって放たれる。
数字とともに光り、
その場の人間を石に変える呪具。

次は僕だった。
彼女の声が届く。

「…恐怖に勝って。」

目の前で光った石。
でも僕は石化しなかった。

支配者が怯んだ。

僕はその石を手に取り、
同じように呟いた。

「carry fea…1 second」

支配者は、石になった。

気づけば──
電車の中。
いつもの会社に向かう朝だった。

僕は途中下車して、
会社に「体調不良で休みます」と電話した。

そして逆方向の電車に乗った。
海を目指して。

車窓から見えた空は、
“欲望のために努力する”
あの世界と同じ色だった。

恐れに覆われた石の中で
僕らはずっと眠っていたのかもしれない。
でももう、
欲望が光を放った——
あの青空の下で。

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言葉と光と、ウーラノスの星

06/23 02:50 更新

笑顔を忘れた日々があった
個性がまぶしすぎて、
まわりの景色に溶け込めなかった僕らは
弱さを隠して、大人になった

この世界に飛び込んだのは、
ただ、自分の言葉が
誰かの“奥”に届くかもしれない
そう信じたからだった

彼女は、自分を探していた
傷ついたまま、
だけど透明な心で
僕の詩に、そっと触れてきた

「今夜のキスで、一生を変えたい」
そんな夜が訪れた
抱きしめるたび、
知らなかった唄が心に流れてきた

時間が溶けていく──
一緒にご飯を食べて、笑って、
手をつないで夜を越えるうちに
僕は彼女の愛し方に救われていった

やがて、僕が抱きしめられていた
彼女の“まっすぐ”が、
僕の“蓋された記憶”を解き放っていく

もう隠さなくていい
過去の自分も、今の自分も
すべて、愛せるようになっていた

言葉が現実になって
心が“空”を歩きはじめた夜
手をつなぐふたりの上に
ウーラノスの星が、やさしく輝いていた

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夢のロープとピエロと、飛べないフェアリー

06/20 23:06 更新

風に乗って現れたのは、
まるで絵本の中から抜け出してきた女の子だった。

3歳児のような笑顔と、
透き通った羽を背負った、
だけど――飛べないフェアリー。

彼女がいたのは、
楽園のようなストーリーを描いた本の、その外側。
誰かが描いた、一本だけのロープの上を、
ひとりで渡る毎日。

落ちたら終わり。
だけど、進む先も見えない。
それでも歩く。
それしか選べなかったから。

そんな彼女の前に、
冴えないピエロが現れた。
夢しか描けない道化の男。

彼は言った。
「ねえ、君が渡ってきたロープ、
少し狭すぎないか?」

彼はもう一本のロープを張った。
それは、夢でできていた。
不安定かもしれないけど、
渡るのは、なぜか怖くなかった。

彼女はゆっくりと目を開いた。
羽が揺れた。
けれどまだ飛べない。

それでも、
ピエロの描いた夢の上なら、歩いてみたいと思えた。

彼女の目から、呪いが静かに溶けていく。
ずっと飲み込んでいた言葉が、少しずつこぼれ出す。

「今夜は……夢に、辿り着きたい」

その声を聞いた瞬間、
彼は彼女を抱きしめた。

その肩越しに見えた羽は、
透明に揺れて、
少しだけ光を帯びていた。

絵空事みたいな笑顔だった。
でも、その笑顔はたしかに今、目の前にあった。

きっと今夜、
彼女は辿り着ける。
“誰かの物語”ではなく、
“自分の楽園”へ。

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