ある居酒屋に晩飯を食べに入ったのです。
斜向かいの離れた席に、中年の女性が座っていました。
結構注文が多く、お酒も二杯、三杯と呑んでずっとスマホをカウンターに置いて一人でいじってました。チラッと見えた画面はLINEらしく、白い吹き出しが長文らしいボリュームで、グリーンのこちらのリプライは小さな合いの手程度のようでした。
やがて隣に顔見知りじゃないらしい男が座り、こちらも1人で飲み食いしはじめました。
別にお互い口も聞かずに黙々と飲んでいましたが、30分もした頃女性の方が会計をしたのです。
つまみを全て食べて残りの酒も飲んで席を立とうと準備を済ませて、女性がタバコを喫おうとして咥えて火をつけようとしたときに
隣の男と目があったのです。
女性がタバコを喫っても良いですか?、と
訊きそうな顔をしてタバコを口から離した時、男はニッコリ笑って「気になさらず喫ってください、僕はタバコをやめたけど今は全然喫いたくないから平気ですよ」と言うのです。
そう言われて「えーと、喫っても良いのよね?」という少し当惑した顔で、間が空いたのですが、すかさず男は近くに積んであった灰皿を一枚取って、「はい」とニッコリ笑って灰皿を差し出したんです。
女性もニッコリ笑って謝辞を述べて軽く会釈したんですが、なにかモヤモヤした空気が生まれて「えーと」って雰囲気になったのです。
男はすかさず「帰り際に邪魔してごめんなさい」といってまたニッコリ、自分の酒のコップを口をつけてそれ以上踏み込みませんから、といった感じになったのです。
今度は、女性が男に「晩御飯ですか?」と訊いて、そこから精算を済ませたはずなのに2人で仲良く話し始めてまたお酒を追加して飲み始めました。
私はそれからしばらくしてお愛想しましたが、2人はまるで旧知の仲のように笑い合ったりしょげたり励ましたりしながら肩を寄せ合っていました。
聴くとは無しに聞こえてくる話では、完全に初対面だったようでした。
口説きもしなかったし、何か気を引くような変わったことをしたわけでもなく、彼は
あまりに自然に会話を初めてしまいました。
見た目にイケメンでも若くもない、タダのおじさんでした。
ただ、非常に人懐っこい笑顔で女性と話をするのになんの抵抗も感じない、とても「普通」な、なんと言うのか散歩の途中の会話みたいに気軽に話してる感じなのです。
ああ、あれならあのまま付き合い始めても不思議はないなあ、と少し驚いたのです。
小さな出会いのシーンに出くわしたお話です。
余り関係なかったかな。