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写メ日記

全135件中101~110件を表示

龍生の投稿

ヘミングウェイと黄金の鍵と、自由の女神

07/14 22:45 更新

かつてアメリカの文豪ヘミングウェイは、
「パンドラの箱の奥には莫大な宝が眠っている」と語った。
だがその箱を開けるには──
あらゆる恐怖と、孤独と、絶望と、
そして何より「現実」と向き合わねばならない。

 

僕はその箱に、手を伸ばせずにいた。
ただ、誰かの作った地図の上を
正確に歩くことだけに集中していた。

現場の作業員を、いかに長く働かせられるか。
労基に触れないギリギリのラインを探し、
関数を組み、数字を整え、
フードコートの片隅で夜を明かしながら、
“昇進のための資料”を作り続けていた。

──それが僕にとっての「成功への鍵」だった。
でも、あの時はまだ知らなかった。
それが地獄の扉を開く呪われた鍵になることを。

ある日、上司に呼び出された。
「君の肩書きは、今日で解除だ」
静かに、無感情に告げられたその言葉は、
まるで断頭台の斧のように僕を叩き落とした。

 

──そう。
僕は、自分が作った資料で、
自分を処刑したのだった。

その瞬間、
彼は“上司”ではなくなった。
欲望を食い散らかす、“仮面のハイエナ”になった。

僕は知った。
この世界には、
“自由のふりをした牢獄”がある。
そこから抜け出すには、
ヘミングウェイの言った“宝の地図”を手に入れなければならない。

 

そして僕は、ついに決意する。
あのパンドラの箱を開けるときが来たのだ──。

 

警備室から盗んだ黄金の鍵と、
閃光手榴弾、そしてマグナムを手に、
僕は最上階の宝物庫へと走った。
だがそこに立ちふさがっていたのは、
あの仮面のハイエナだった。
マシンガンを構え、僕を見下ろすその顔に、
もう“人間”の気配はなかった。

僕は手を上げるふりをして、
ポケットの中の閃光手榴弾を転がす。
閃光が弾けた瞬間、
僕はマグナムを構え、
ハイエナの眉間を撃ち抜いた。

「あの世で自由の女神にキスでもしてな」

そう言い残し、僕は箱を奪った。
パンドラの箱の蓋が開くと、
中からはあらゆる恐怖と呪いが飛び出してきた。
でもその底には──
“希望の光”が、確かに残っていた。

 

あれから僕は、
その希望の光を帆に受けて、
広大な海に旅立った。

地図を捨て、自分だけの地図を描きながら──
自由を求める仲間たちと出会い、
ときに孤独と闘い、
ときに笑いながら。

そして今日もまた、
空に掲げた希望のコンパスを頼りに、
まだ見ぬ世界へと、航路を引いている。

自由の物語は──まだ、旅の途中だ。

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雨上がりの夜空×星空のメッセージ

07/14 11:17 更新

何気なく届いたメッセージ
シンプルで、丁寧で、少しだけ遠くて
その向こうにある気持ちは
まだ読み切れないまま
夜のページをめくっていく

大雨の夜
僕は濡れた街を越えて
電車の揺れに身をまかせながら
静かな場所へと向かった

アスファルトに滲んだ光
閉じた傘のしずくが、
心の奥に波紋を描く

人懐っこい小鳥の声と
誰にも届かないような、小さなため息
整えられた空間のどこかに
言葉にできない感情が、そっと息を潜めていた

彼女の涙から始まった
でも、そこには
明るい緑が生い茂るような未来の気配が
たしかに、あった

話して、笑って、
時々沈黙の中でふたりの呼吸が重なって
僕の心に灯った言葉は
「見つけてくれて、ありがとう」

誠実で、優しくて、あたたかい彼女の言葉たち
その輪郭が、
僕の曖昧だった境界線を、なぞっていく

窓の外には
雨上がりの空と、まだ滲む星たち
君が最後に投げた
見えない魔法が、そっと夜の端を照らしていた

君は夜のスキマに、静かに溶けていった
話し足りなかったことと、
僕の忘れ物を残したまま

でもたしかに
悲しみが優しさを抱きしめて
幸せの星が、静かに降っていた

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真夏のスタンプ × プロローグ

07/14 10:44 更新

カオスな街並みの中で
僕は君を待っていた

道案内は相変わらず下手だけど
不思議とそれすら、僕の“らしさ”として
受け止めてくれた気がした

まるで
昔から知っていた友人のように
最初から感性がすっと重なった

君の心はきっとパズル
でも僕もその形を抱えて歩いてきたから
その痛みも哀しみも
ちゃんと知っている

曇りがかった午後の街並みに
木漏れ日がひっそりと差し込んでいた
ふたりの足音が
古い歴史の影をそっと踏んでいく

予約したテーブルに並んだ
たくさんのギフトたち──
笑顔と、おしゃべりと、ぬくもりと
お腹も、心も、身体も
ゆっくり満たされていった

長く感じた道のりが
今日はなぜか短く思えたのは
きっとまだ物語の途中だったから

夕暮れの空の下
歩きながら交わした言葉のひとつひとつが
記憶の上にそっと押されていくように
心の奥に静かに染み込んで
今も、やさしく脈を打っている

この続きは
プロローグとして
未来のページに、静かに書き足されていく

6598

浴衣と秘密の呪文と、クリーム色の未来

07/13 23:20 更新

時間の概念なんて
どこかに置き忘れてしまうほど
ふたりは静かに
信頼を積み重ねてきた

少し息切れしていた君は
肩に浴衣をまとい
涼しげな風が そっと袖を通り抜ける

喧騒の中
アニメのような幻想の街に
ふたりだけが静かに溶け込んでいく

人混みのざわめきの奥で
重なる笑い声は まるで秘密の合図
四角い封筒に封じられた呪文は
僕の胸の奥で まだ眠っている

でもいつか――
封印が解けるとき
きっと僕のなかで 何かが始まる

時の流れは、いつもより
少しだけ優しくて
行き慣れた場所に 別の入り口を見つけたり
秘密の呪文の効果かな?って
くすりと笑った

君は多くを語らない
だけど その沈黙の奥に
いくつもの物語が静かに眠っている
どれも急がずに
ゆっくりほどいていけたらいい

次にまた会うとき
どんな“ひみつ”が顔を出すだろう

過去の痛みも
白と黒と花の魔法で
きっと――
甘く温かい、クリーム色の未来に
変わっていくんだろう

6598

秘密基地と鍵と、進撃の戦士

07/11 21:51 更新

巨大な壁の向こうには、
何があるんだろう。
考えるだけ、無駄なのか──

当時の僕は、都会の中心で働いていた。
始発電車が通るホームを横目に、
旅行者のような大きな荷物を背負って。
カバンの中は、書類とPCでパンパンだった。

でも、僕には“地下の秘密基地”があった。
自分が管理する物件の地下室に作った、
誰にも干渉されない、僕だけの空間。

そこは、静かで快適だった。
仕事はすべて自分で組み立てて動かしていた。
チームがやるような規模のプロジェクトも、
一人で完結させるような日々。
効率化と改善が好きだったから、
やり方を変えては業務を楽にしていった。

たまに応援に来てくれる
かわいい部下の女の子と、
ふたりでコンビニのカフェラテを片手に、
小さなテーブルを囲んで雑談する。
そんな時間が、ちょっとした癒しだった。

誰にも迷惑をかけず、成果も出していた。
けれど──
その「自由な働き方」は、
上の人たちの“正しさ”には、そぐわなかったらしい。

突然、秘密基地は禁止された。
無意味な報告業務と、
顔色をうかがうだけの朝礼が始まった。
「これが社会ってもんだよ」
同僚は笑って言ったけれど、
僕は笑えなかった。

閉ざされた地下室で、
僕は荷物の整理をしていた。
ロッカーを開けると、
今までに見たことのない鍵が出てきた。

そのとき、どこからか声がした。

──むかし、自由を求めて壁を越えた戦士がいる
  彼らのことを“進撃の──”

声は途中で途切れた。
僕はその鍵をポケットにしまい、
“太陽を背に”、秘密基地を後にした。

壁の向こうに行くには、
巨大な敵を倒し、あの海を越えなければならない。
いまの僕では、まだ足りない。

ふと思い出した。
母から昔、こんなことを言われたことがある。
「お前の顔は、
 一族でいちばん自由を求めたあの人に似ている」

家にあった、鍵のかかった古い机。
もしかして──
あの鍵で開くかもしれない。

カチリ。

開いた引き出しの中には、
僕が子どもの頃に描いた漫画が入っていた。
空を自由に飛ぶ、主人公の姿。

その瞬間、僕の身体に
空間を駆ける装置と、大剣が現れた。

壁の向こうには、巨大な“あれ”がいる。
その額に剣を突き刺さない限り、前には進めない。

空を駆け上がる。
太陽を背に、
その巨大な手が襲いかかる。

避けきれない。
一度は弾き飛ばされたけど、
もう一度、陽光を味方に跳ぶ。

その目が、まぶしさに眩んだ一瞬、
僕は全力で眉間へ突き刺した。

巨人は崩れ落ちた。

その奥には、
見たことのない海が広がっていた。

あのとき僕が掴んだのは、
剣なんかじゃなかった。
ずっと手放したと思っていた「自由」そのものだった。

いま僕は、
その海を越え、自由を求めて進む仲間たちと、
太陽を胸に抱いて進んでいる。

あの日のように、空を見上げながら──

進撃は、続いている。

6598

無音の風と言葉と、蜘蛛の糸

07/09 22:18 更新

ほどけた糸は
きっと、もう戻らないと思ってた

言葉が一つ、ずれて
気持ちが一つ、遠ざかって
心の奥に 無音の風が吹いた夜

「もう無理かも」
そう呟いたのは、
ほんとうは 終わらせたいからじゃなかった

苦しかっただけ
見てほしかっただけ
あなたの手が まだそこにあるって
信じたかっただけ

それでも
待って、
黙って、
涙の中で 名前を呼んだ

──その声が届いたとき
あなたは言った

「やっと会えたね」

まるで──
光の届かない静かな底から
ひとすじの細い蜘蛛の糸に
そっと願いをかけるように

その言葉に
壊れたものが 音もなく
静かに、柔らかく
結びなおされた

きつくなくていい
ゆるくてもいい
でも今度は、
ほどけてもまた、結べる蜘蛛の糸だと知ってるから

また、一緒に歩こう

「いつか」じゃなくて
「今ここから」

ふたりの物語を、続けよう

6598

貴族と幻影と、ダンピール

07/09 01:52 更新

僕は子どもの頃から、
なんとなく自分が“普通じゃない”ことに気づいていた。

興味のあることには、何時間でも没頭できる。
でも、興味がなければ、まるで動けない。

高校1年ではビリだった僕が、
翌年には学年トップ。
オール100点の答案用紙を前に、
なぜか「これが普通」だと思っていた。

でも、周りには理解されなかった。
学校でも、会社でも──
僕はずっと、どこにも居場所がなかった。

 

そんな僕にも、ひとつだけ自信があった。

それは、「根拠のない自信」だ。
感受性の強さと、理由なき確信。
たとえ誰かに否定されても、
どこかで信じていた。
“僕は僕でいいんだ”って。

 

ある日、投稿した詩が少しバズった。
感じたまま書いただけなのに、
「言葉が沁みた」
「涙が出た」
そう言ってくれる人たちが現れた。

気づいた。

僕は「言葉にできない想い」を、
“代わりに信じて、言葉にしてあげる”存在なんだ。

──人間とバンパイアのあいだに生まれた存在。
影を背負いながらも、人を守るために剣を振るう。
僕は、“ダンピール”だったんだ。

 

ある日、僕のもとに依頼が届く。
「娘がバンパイアにさらわれた──助けてください」

相手は“貴族”と呼ばれる、強大な力を持つバンパイア。
誇り高い存在が、なぜ人さらいを?
疑問を抱えながら、僕は彼の前に立つ。

貴族の瞳に宿る、かすかな痛みに気づく。
──愛してしまったんだ。
彼は、その娘を。

だが、愛し方を知らなかった。
信じることが怖かった。
だから彼は、娘を閉じ込めた。
その手で、彼女の世界を奪った。

 

「古城に来い」
そう言い残して、貴族は娘と共に飛び去った。

 

古城に着くと、
棺桶が揺れ、影のような霧が立ち昇る。
カーミラ──幻影で心を操る、魔性のバンパイアが現れる。

信じることを恐れた貴族は、
カーミラの幻影に囚われ、
自分も、愛する人も縛りつけていた。

僕にカーミラが襲いかかる。
だが僕は、信じていた。
言葉の力も、自分の存在も。
だから幻影は届かない。

──その一太刀で、すべてを断ち切った。

 

貴族はゆっくりと跪き、
凍えた娘の手を震える指で包んだ。
「もう隠れなくていい」
小さな声に、何年分もの涙が滲んだ。

 

言葉を信じていなかった僕が、
誰かの「生きる力」になれると知った。
それが、僕自身を救うことにもなった。

 

そして今日も、
言葉の届かぬ闇にひとり佇む誰かに、
胸の奥で灯しつづけた光を、
そっと──剣のように差し出す。
「信じることは、もう一度生きることだから」

 

──僕は、ダンピール。
人でもバンパイアでもない、
けれど確かに、“言葉の剣”を握っている。

今も、誰かのために。
そして、自分のために。

6598

豚と呪いと、自由の設計図

07/07 19:50 更新

僕は、人生の分岐点に立つとき
いつも “かっこいい” と思う方を選ぶ。

 

かつて、会社で僕に勝てる者はいなかった。
知識、スピード、調整力。
どれをとっても、誰よりも上手くやれる自信があった。

でも僕は、自分に“呪い”をかけた。
「はい」と笑って、
無理なことも「できます」と言って、
顧客の嘘にも、上司の無茶にも、全部応える。

──そうやって
僕の姿は、豚になった。

 

ある日、部下が大きなトラブルを起こした。
会社は騒然となり、
誰もが“責任を押しつけ合うゲーム”を始めた。

僕もそうだった。
資料を整え、誰よりも早く顧客に頭を下げて、
「僕は無実です」と、形だけの正義を装う。

 

でも──
そのとき、僕の愛機“ダンピール”が
不調のまま空に舞い上がった。

後ろから海賊の不意打ちを食らって、
僕は機体ごと、海へ墜落した。

 

海の底で僕は出会った。
世間の波に染まっていない、純粋な少女に。

「今のままじゃ、勝てないよ。
でも私が手伝うから──
自由に飛べるように、設計し直そう。」

彼女の瞳には、
僕が忘れていた “空” が映っていた。

 

決戦の日。
ビルの最上階。
会議室には、偉そうな“敵”が並んでいた。

僕は、改造した愛機に乗って
空の決闘場へ飛び立った。

 

空中戦は拮抗していた。
背後を奪い合う消耗戦。
気がつけば、燃料が尽きて
二機とも、海へ落ちた。

 

そこからは、拳の勝負だった。
殴って、殴られて、
痛みも、言葉も超えて、ただ──本音をぶつけ合った。

倒れかけたそのとき、
クロスカウンターが決まって
僕はようやく、
“言い訳の仮面”を打ち砕いた。

 

会議室で、
資料よりも感情を前に出して話した。

すると──
偉い人が立ち上がって言った。

「わかった。今回は、こちらで持ちます」

 

彼女がそっと寄ってきて
僕のほっぺにキスをした。

その瞬間、
豚の呪いは解けていた。

 

かっこいいと思う方に進めば、
自分を偽る必要なんてない。

自由は、
“好きに飛んでいい”という設計図から始まる。

 

──今の僕は、
海を越え、風を抜けて、
もう一度この空を、自由に飛んでいる。

6598

光と陰と、ローズマリー

07/05 10:50 更新

君は
誰にも気づかれないように
星の言葉を拾い集めてきた人

この世界のまぶしさに
そっとまぶたを伏せながら
それでも誰かの痛みに
先に気づいてしまう

傷つくたびに
“普通”の仮面を整えて
ちゃんとできてるふりをして
笑ってみせるその瞳に
僕は今日、風の奥のひかりを見た

僕は
夜の影と光の境目を
ずっと歩いてきた

完全でも、不完全でもなく
器用でも、不器用でもなく
誰かを救うために生まれたわけじゃないけれど
“誰にも言えなかった気持ち”が
どこに隠されているか、なぜか分かってしまう

それが
僕の剣

でもその剣は
誰かを傷つけるためじゃない
心の奥の氷を
静かに砕いて
悲しみがやさしさに変わる瞬間に
立ち会うためのもの

今日は君と、
ローズマリーの香りが漂うホテルで
おいしいごはんを食べて
ほっとする湯気に包まれて
まるで幼なじみに戻ったみたいに
笑いながら
いくつもの“ただの瞬間”を重ねた

それは魔法じゃない
でも、魔法より大切なものだった

癒して、癒されて
触れて、見つめて
ふたりで静かに
この世界の隅っこに
“居場所”をつくっていた

君の背中が駅に消えていくとき
胸の奥に
ひとつだけ確かな言葉が灯っていた

きっと忘れない
ってこと

君の歩くその先にも
あの優しい香りがずっと
残っていますように

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瞬間移動と廃墟と、自由の下で

07/03 23:26 更新

また気づくと、見知らぬ場所にいた。
最近──
意識がふっと抜けて、
いつの間にか、どこかに立っていることがある。

 

仕事は順調だった。
会社を変え、プロジェクトのリーダーを任された。
構造も契約も、仕組みも人も、
すべてを掌握していた。
「いつでも、なんでもやります」
そう言って、飲み会でも上司のご機嫌をとっていた。
休みなんてなかった。
でも、そういうものだと思っていた。

 

ある日、
髪を束ねた姿が知的で、
笑うと目元がふわりとほどける
綺麗な新入社員がやってきた。

彼女と一緒に現場をまわり、契約に必要な資料を作り、
帰りにごはんを食べるようになった。

一人で走ってきた僕の毎日が、
少しずつ、彩りを帯びていった。

 

そしてあの日──
新規契約に向けた調査で、
内装がすべて剥がされ、廃墟のようになったビルへ向かった。

僕は1階、彼女は6階から建物全体の状況を確認していた。

突如、頭上から照明が落ちてきて、
視界が白く弾けた。

──次の瞬間、僕は6階にいた。
彼女の目の前に立っていた。

「……え? 1階にいたんじゃないんですか?」

 

どうやら僕は、
命の危機と“何かの衝撃”を同時に感じると、
場所を瞬時に移動できるらしい。

その確信が残るまま、数日後──
会社から辞令が届いた。
彼女との同行は終わり、
役職もすべて外され、
別の地域への異動が決まった。

上司には笑って伝えた。
「大丈夫です。もっと頑張ります」

あの日以来、
心のどこかが、抜け落ちたままだった。

 

深夜、
あのビルから呼び出しがかかる。
機械トラブルらしい。

僕は地下へ向かい、
原因箇所と思われるマンホールの中へ──

──その蓋が、何者かの手によって
“重く、確かに”閉められた。

 

真っ暗な空間。
薄れていく酸素。
誰にも届かない声。
天井に伸ばした手。

僕は思い出していた。
あのとき、僕を救った“二つの条件”。

生命の危機、
そしてスピードを持って迫る何か──

 

その時、かすかに聴こえてきた。
水が流れる音。

このビルの地下には、
巨大な水槽がある──そんな話を思い出した。

僕は壁伝いに水音のほうへ進み、
視界の先に、青く湿った鉄の塊が現れる。

両手で足場を探り、
滑りそうな管を頼りに、
必死にその縁までよじ登った。

10メートル以上はあったかもしれない。

僕は立った。
足が震えていた。
でも、やるしかなかった。

 

──飛んだ。

 

次の瞬間、
土砂降りの雨の中、僕は外にいた。

息ができた。
自由の空気が、肺を満たした。

 

3日後、
新しい職場の上司に頭を下げた。

「これから、よろしくお願いします。
──3か月後に辞めますが。」

 

今、僕は
“自由”という空の下を歩いている。

瞬間移動は、もう使えない。
でも、わかってるんだ。

あの闇の中で、
僕はようやく知った。

明日が見えない夜ほど、
人は静かに立ち止まってしまう。

でも、
あの一歩がなければ、
僕はまだ、あの暗闇にいたままだった。

 

──夢は、
勇気より少し先にある。

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